ごあいさつ

近年、医薬品・医療機器の開発は大きな転換期を迎えています。薬事承認におけるリアルワールドデータ(Real World Data: RWD)の利活用や、臨床研究におけるデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation: DX)の進展、患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcomes: PRO)を活用した評価指標の採用など、先端医療開発のさまざまな段階において、新たな技術や概念が急速に取り入れられつつあります。さらに、患者・市民参画(Patient and Public Involvement: PPI)の重要性が高まり、マスタープロトコル試験など柔軟性の高い治験デザインの普及も進んでいます。加えて、遺伝子治療、核酸医薬、細胞・再生医療等製品といった新たな医薬品モダリティの登場により、従来の開発・評価の枠組みでは対応が難しい課題も顕在化しています。特に、個別化医療や超希少疾患領域においては、従来型の大規模臨床試験に依らない開発戦略や、新たなエビデンス構築の在り方が求められています。また、データサイエンスやAIの進展により、臨床試験デザインやデータ解析、さらには開発戦略そのものも高度化・複雑化しており、研究開発全体を横断的に捉える視点の重要性が一層高まっています。こうした背景のもと、臨床研究は、医療現場への実装を明確に見据えた「実装志向」の段階へと進化しつつあり、アカデミアの臨床開発支援組織(ARO)には、先端医療開発をあらゆる側面から俯瞰的に捉え、戦略的に伴走することが求められています。

Atsushi HASHIZUME

名古屋大学医学部附属病院
先端医療開発部長

教授 橋詰 淳

名古屋大学では、この先端医療開発を担う中核組織として、先端医療開発部がその役割を果たしています。先端医療開発部は、名古屋大学医学部附属病院の理念「診療・教育・研究を通じて社会に貢献します」のもとに掲げられている4つの基本方針の一つである「次代を担う新しい医療を開拓すること」を目標としています。私たちはこの理念に基づき、日々、先端医療開発に関わる支援業務に従事しています。

2026年4月1日より、先端医療開発部は、TRセンター、臨床開発センター、治験支援センター、データセンターの4センター体制へと改組し、基礎研究から保険収載に至るまでのプロセスを一気通貫で支援する体制を強化しております。核酸医薬分野では、稀少・難治疾患である悪性脳腫瘍に対する医師主導治験が進行中です。バイオ医療分野では、トランスポゾンベクターを用いたCAR-T細胞療法の実用化や、Muse細胞を用いた周産期脳障害の新規治療法の開発に関する医師主導治験の実施など、着実な成果を上げています。医療機器分野では、男性腹圧性尿失禁に対する低侵襲再生医療のための自己ヒト皮下脂肪由来再生(幹)細胞分離用医療機器が薬事承認を取得しました。

また、ARO人材の育成にも力を入れており、臨床研究・治験に携わりたいと考える医師・歯科医師等を対象とした研修の実施や、各種セミナーの拠点内外への配信など、さまざまな取り組みを積極的に進めています。

さらに、2021年に医学系研究科に新設された「臨床研究教育学」との連携を通じて、支援人材の体系的な育成と次世代研究者の育成を両立させる教育研究環境の整備にも注力しています。本講座は、医療現場に根ざした研究課題の創出と、その社会実装までを俯瞰できる人材の育成を目指しており、先端医療開発部と密接に連携することで、実学としての臨床研究教育のモデルを創出していきます。

こうした取り組みを通じて、名古屋大学医学部附属病院を拠点とした新しい臨床研究支援モデルの構築を目指し、中部から全国、そして世界へと、社会に資する医療イノベーションを発信してまいります。

「中部から全国へ、そして世界へ」──

先端医療開発部は、これからの時代にふさわしい臨床研究支援の在り方を構想し、着実に実行してまいりたいと考えています。その実現のためには、皆様のご指導とご協力が欠かせません。今後とも変わらぬご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

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